関東地方の減衰構造

前年に東北地方の減衰構造解析に用いたプログラムを適用し,関東下の三次元P波減衰構造を推定した論文です.得られた減衰構造の特徴は速度構造と非常によく似ており,高減衰-低速度,低減衰-高速度の間に明瞭な対応関係があります.特に,私が「蛇紋岩化している」と指摘している関東地方東部のフィ リピン海スラブ内は高減衰異常となっており,その西縁は低速度域の西縁と一致します.また,太平洋プレート上の相似地震は,その直上のフィリピン海プレートが高減衰異常を示す領域下では発生していないこともわかりました.関東の地震テクトニクスを理解する上で重要な成果だと思います.この論文は科研費「地殻流体」の特集号に掲載されています.

J. Nakajima
Seismic attenuation beneath Kanto, Japan: Evidence for high attenuation in the serpentinized subducting mantle
Earth, Planets and Space, 66, 12, doi:10.1186/1800-5981-66-12, 2014.  LINK


フィリピン海スラブ内の起震応力場

関東下のPHS内で発生する微小地震のメカニズム解を決定し,応力場について議論しています.関東の北東部では主としてDT型であり,スラブの負の浮力が原因であると考えられます.ただし,スラブの先端付近ではDC型のメカニズム解もみられ,先端部では沈み込む抵抗力が効いているのかもしれ ません.南東部ではσ1,σ3ともスラブ表面に斜交し,この応力場は関東地震のアスペリティの固着によって生じる応力場とほぼ一致します.また,1922年浦賀水道地震(M6.8)はPHS内で発生した地震であるとするとそのメカニズム解を説明できます.最初にGRLに投稿したときは「大幅改訂が必要なので一旦リジェクトする.改訂を終えたら再投稿してほしい」と言われた論文です.1年後くらいに改訂版を投稿したところ,そのまま受理されました.びっくりしました.

J. Nakajima, A. Hasegawa, and F. Hirose
Stress regime in the Philippine Sea slab beneath Kanto, Japan
Geophys. Res. Lett., 2011, 38, L16318, doi:10.1029/2011GL048754, 2011.  LINK


M7クラス地震の発生原因と蛇紋岩化

関東下のフィリピン海スラブのマントル部分がウエッジ状に蛇紋岩化していることを示し,1921年茨城県南部の地震(M7)と1987年千葉県東方沖地震(M6.7)は,蛇紋岩化域の西縁で発生していることを指摘しました.また,蛇紋岩化域の西縁に沿う変位速度を推定したところ年間0.5-0.9cmの変位があることがわかりました.1987年の地震では約30-60cmの断層すべりがあったとされています.それだけの断層すべりを蓄積するためには約60年必要です(年間0.5-0.9cm変位を仮定).実際,1987年の一つ前の地震はその64年前の1923年関東地震の余震の一つとして発生しています(約60年という見積もりとほぼ一致します).このように考えると次の1987年タイプの地震の発生は2050年頃と考えられます.フィリピン海プレートのマントルの最前線が太平洋プレートから放出された流体によって沈み込む前からマントルが広域に蛇紋岩化しているという解釈は,伊豆-小笠原弧における蛇紋岩海山の存在と調和的です.論文では1923年前後の関東地方のM7クラスの地震の発生を統一的に説明するモデルも提案しています.関東地方の地震テクトニクスを明らかにした論文だと考えています.

J. Nakajima, and A. Hasegawa
Cause of M7 earthquakes beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: Possible evidence for a vertical tear at the easternmost portion of the Philippine Sea slab
J. Geophys. Res., 115, B04301, doi:10.1029/2009JB006863, 2010.   LINK


関東地方のプレート構造  こちら


断裂帯に沿う地震活動

関東南西部にみられる太平洋スラブ上面の帯状の地震活動の原因についての論文です.ほぼ鉛直の節面を持つ地震が多いことから,沈み込んだフラクチャーゾー ンが再活動したのではないかと考えました.ただし,その直後の論文(Hasegawa et al., GRL, 2007)で帯状の地震活動は海洋性地殻の脱水と関係した地震であると解釈され,この論文の解釈は棄却されています.解釈は間違ってましたが,この後の海洋地殻の地震活動に関する一連の研究の土台になった論文です.タイトルには出ていないですが,太平洋プレートの形状も推定しました(プレート形状としての引用が多い論文です).

J. Nakajima, and A. Hasegawa
Anomalous low-velocity zone and linear alignment of seismicity along it in the subducted Pacific slab beneath Kanto, Japan: Reactivation of subducted fracture zone?
Geophys. Res. Lett., 33, L16309, doi:10.1029/2006GL026773, 2006.    LINK