非地震性すべりと地震発生

プレート境界で発生する繰り返し地震については数多くの研究があります.繰り返し地震は,準静的すべり(スロースリップ)により孤立したアスペリティが繰り返し破壊することで発生すると考えられています.本論文では,日本列島下の内陸地殻およびスラブ内における繰り返し地震の発生を系統的に調べ,1)繰り返し地震は内陸地殻やスラブ内でも発生すること,2)その発生間隔はべき乗則に従い,プレート境界での繰り返し地震と同じでることを明らかにました.プレート境界での繰り返し地震の発生メカニズムを考慮すると,地殻やスラブ内の断層においても非地震性すべりが発生し,その結果として繰り返し地震が発生していることを強く示唆しています.さらに,繰り返し地震は普通の地震(繰り返し地震でない地震)と同じ断層面上で発生することを考えると,すべての地震の発生にはスロースリップが寄与していると推測されます.論文では繰り返し地震は特別な地震ではないと結論づけています.

J. Nakajima and A. Hasegawa
Prevalence of repeating earthquakes in the continental crust and subducting slabs: triggering of earthquakes by aseismic slip
J. Geophys. Res. 128, e2022JB024667, 2023  LINK


どこでも起こる地殻内低周波地震

普通の地震よりやや低周波(1-4Hz)にエネルギーが卓越する地震を低周波地震といいます.最近はプレート境界で発生する低周波地震についての論文が多いですが,実は低周波地震は内陸の火山周辺の下部地殻で最初に発見されました.通常の地震が発生しない下部地殻で発生することから,「深部低周波地震」ともよばれます.これまでの研究により,低周波地震は火山から離れたところでも発生すること,上部地殻においても通常地震と隣接して発生することなどがわかってきました.これらの結果は,低周波地震の主な発生要因は特定の温度・圧力ではないことを強く示唆しています.
本研究では,日本列島の約100万個の地震波形の周波数成分を計算し,低周波に卓越した地震は上部地殻で広く発生していること,またM6.5以上の内陸地震の余震にそのような地震が多く含まれることを明らかにしました.低周波地震に分類さると「特殊な地震である」という印象を与えますが,地震波形の周波数成分は連続的に変化することもわかりました.つまり,普通の地震のなかで特に低周波成分に富む地震に「低周波地震」というフラグが立てられていますが,その発生メカニズムは普通の地震と本質的な違いがないとを強く示唆しています.この論文では低周波地震は極めて高い(ほぼ静岩圧と同じ)間隙流体圧のもとで発生しているというモデルを提案しました.地震の発生メカニズムを統一的に理解する第一歩だと考えています.

J. Nakajima, and A. Hasegawa
Prevalence of Shallow Low-Frequency Earthquakes in the Continental Crust
J. Geophys. Res., 126, e2020JB021391, doi:10.1029/2020JB021391, 2021  LINK

日本語の解説記事(レビュー記事)はこちら: 地学雑誌  地震ジャーナル


プレート境界からの排水

茨城県南西部のフィリピン海スラブ上の地震クラスター(地震の巣として有名)とその直上で発生する地震の解析を行いました.その結果,プレート境界で約1年周期の「スロースリップ(ゆっくりすべり)」が発生し,その発生と同期して上盤の地震波減衰が大きくなること,また数ヶ月遅れて上盤地震が活発になることが明らかになりました.この一連の時空間的な対応を説明するために,スロースリップに伴って水が浅部に排出され,その水により減衰が大きくなり,さらに地震が誘発されるというモデルを提案しました.当初は減衰解析の時間窓を1年として解析したのですが,顕著な時間変化は見られませんでした.結果的には,1年という時間窓が長すぎて,約半年で変化する減衰を分解できていないことが原因でした.時間窓を短くする「勇気」を教えられました.個人的にも思い入れの深い論文です.実は,実家がこのクラスターの直上にあり,小さいころから有感地震を感じていました.解析に使ったMeSO-netの観測点は出身小学校にも置いてあります.地元の地震活動を解析して,一定の結果を得られたことは感慨深いです. プレスリリース

J. Nakajima, and N. Uchida
Repeated drainage from megathrusts during episodic slow slip
Nature Geoscience, 11, 351–456, doi:10.1038/s41561-018-0090-z, 2018.   LINK


プレート境界で低周波地震が起こる条件

西南日本については深部低周波微動の発生は上盤プレートの蛇紋岩化と関係しているという指摘がされていました.しかしながら,その後の研究により,世界的に見ると低周波微動は海溝付近から地震発生帯の下限に至る広い深さ範囲で発生していることがわかってきました.このことは「蛇紋岩化」は本質的な原因ではないことを意味しています.そこで,私たちは西南日本のフィリピン海プレート周辺の地震波速度・減衰・異方性構造を高精度で推定することで,深部低周波地震と上盤側の構造不均質の関係を明らかにしました.その結果,上盤側が地震波低速度・高減衰異常を示す領域下では深部低周波地震(微動)はほとんど発生していないことがわかりました.一方,微動発生域の直上ではそのような構造の異常はみられません.論文では,低周波地震非発生域ではプレート境界から上盤に水が漏れていると解釈し,その水漏れによりプレート境界の間隙水圧が十分に高くならないために低周波地震は発生しないというモデルを提案しました.それまでに提案されていたモデルと全く逆の解釈です.「ゆっくり地震」に関する初めての論文です.2014年に一度リジェクトされた論文のリベンジ版です.東工大に異動して初めての論文ですが,研究自体は東北大時代のものです. プレスリリース

J. Nakajima, and A. Hasegawa
Tremor activity inhibited by well-drained conditions above a megathrust
Nature Communications, 7, 13863, doi:10.1038/ncomms138631, 2016.   LINK