和歌山の群発地震

和歌山市周辺では,「和歌山の群発地震」と呼ばれる長期にわたる活発な地震活動(非火山性の群発地震)が存在します.発生場所やメカニズム解の特徴などから,中央構造線に平行に分布する主要な断層帯がその発生原因であるとの議論もなされています.しかし,それらの断層帯は紀伊半島の東西に広く延びている一方で,群発地震は約30 km四方の限られた領域で発生しています.つまり,「なぜ特定の狭い領域で群発地震が発生するのか」についての答えは得られていませんでした.本論文では18年間の地震カタログから地震活動の特徴を調べ,さらに紀伊半島周辺の三次元地震波速度構造を求めることで,群発地震活動の原因を考察しています.論文の結論は,「群発地震の発生場所は地殻内の構造不均質にコントロールされている(深部からの流体が群発地震活動域へ集中的に供給されている)」です.大阪湾下の下部地殻で発生する低周波地震,3He/4He異常,有馬型温泉水の起源なども同じ流体の上昇が原因であると解釈できます.また,紀伊半島下におけるフィリピン海スラブの谷状の形状は,紀伊半島下の深さ15–40 kmに存在する高速度異常域(高密度・高硬度の岩石)が原因であると議論しています.

J. Nakajima
The Wakayama earthquake swarm in Japan
Earth Planets Space, 75:48, doi:10.1186/s40623-023-01807-6, 2023. LINK


非地震性すべりと地震発生 こちら


能登半島の群発地震

2020年12月から活発化した能登半島北東部における群発地震の原因を探るべく,能登半島周辺の三次元地震波速度構造を推定した論文です.基盤観測網のデータ(気象庁カタログ)を用いた解析です.得られた結果は,能登半島北部ではその直下の下部地殻に地震波低速度域が広く分布していること,その南西側では2007年能登半島地震,北東側では今回の群発地震が発生していることを示しています.群発地震下の上部地殻は明瞭な地震波低速度域とはなっていませんが,地表で観測されるヘリウム同位体比が高いことから,マントル起源の流体が地表まで上昇していることを示唆しています.今回の群発地震と2007年能登半島地震(さらには1993年能登半島沖地震も)は同じ起源をもつ深部流体の上昇によって引き起こされてたと考えられます.しかしながら,同じ流体の上昇でもあるときは2007年能登半島地震のような本震-余震型の地震が起こり,別のときには群発地震になる理由はまだわかりません.また,群発地震の活動度の推移を把握するためには流体の動きを捉える研究が必須といえます. プレスリリース

J. Nakajima
Crustal structure beneath earthquake swarm in the Noto peninsula, Japan
Earth Planets Space, 74:160, doi:10.1186/s40623-022-01719-x, 2022. LINK


どこでも起こる地殻内低周波地震 こちら


新潟-神戸ひずみ集中帯の地震波減衰構造

基盤観測網のデータを用いて,新潟-神戸歪み集中帯(NKTZ)を含む中部日本のP波減衰構造を推定しました.NKTZの地震波速度の論文(Nakajima and Haseagwa, EPS, 2007)の続編です.日本列島で顕著な歪み集中帯の一つであるNKTZに沿っては地震波低速度域があることはわかっていましたが,地震波速度からわかるのは「弾性定数が小さい」ということだけで,非弾性に関する情報はわかっていませんでした.そこで私が開発した手法(Nakajima et al., JGR, 2013)を用いてP波減衰を推定したところ,NKTZ下の下部地殻は地震波高減衰を示すことがわかりました.このことは,NKTZに沿う顕著なひずみ集中は下部地殻の非弾性が原因であることが強く示唆されます.東工大で解析した初めての成果が論文になりました.

J. Nakajima, and T. Matsuzawa
Anelastic properties beneath the Niigata-Kobe Tectonic Zone, Japan
Earth Planets Space, 69:33, doi:10.1186/s40623-017-0619-1, 2017. LINK


濃尾断層の深部構造

濃尾断層系周辺の合同観測によって展開された稠密地震観測網のデータを用いて地震波速度トモグラフィを行い,濃尾断層に沿う下部地殻の不均質構造を明らかにしました.断層系の北部では下部地殻の地震波速度が周囲よりも4–9%遅く,そこには2-3vol%の水があることが示唆されます.また,国内最大の内陸地震として知られている1891年濃尾地震(M8)の破壊の開始点は,下部地殻の速度が急激に変化する領域の直上に位置していることがわかりました.この結果は,下部地殻の構造不均質よる上部地殻への歪の集中と濃尾地震の発生が深く関係していることを示唆しています.

J. Nakajima, A Kato, T. Iwasaki, and The JapaneseUniversity Group of the Joint Seismic Observations at the Nobi area,
The weakened lower crust beneath the Nobi fault system, Japan: Implications for stress accumulation process to the seismogenic layer
Tectonophysics, 655, 147–160, 2015. LINK


跡津川断層の深部構造

跡津川合同観測によって展開された稠密地震観測網のデータを用いてトモグラフィを行い,跡津川断層直下の下部地殻に顕著な低速度異常があることを見いだしました.その速度異常から流体の形状や体積分率を推定したところ,跡津川断層系直下の下部地殻は周囲に比べ流体に富んでいることがわかりました.また,上部地殻の速度構造も断層走向方向に不均質であり,地震は地震波速度が速いところで多く発生しているという特徴があります.

J. Nakajima, A Kato, T. Iwasaki, S. Ohmi, T. Okada, T. Takeda, and The JapaneseUniversity Group of the Joint Seismic Observations at NKTZ,
Deep crustal structure around the Atotsugawa fault system, central Japan: A weak zone below the seismogenic zone and its role in earthquake generation
Earth Planets and Space, 62, 555-566, 2010. LINK


新潟中越・中越沖地震震源域の深部構造

2004年新潟県中越地震,2007年新潟県中越沖地震震源域の速度構造の解析結果です.2つの地震の震源域直下の下部地殻には低速度域が存在することから,流体によって軟化した下部地殻の塑性変形の存在が地震発生層への応力集中に寄与したのではないかと考えられます.EPSの特集号です.また,この成果は読売新聞で紹介されました.

J. Nakajima, and A. Hasegawa
Existence of low-velocity zones under the source areas of the 2004 Niigata-Chuetsu and 2007 Niigata-Chuetsu-Oki earthquakes inferred from travel-time tomography
Earth Planets and Space, 60, 1127-1130, 2008.    LINK


新潟-神戸ひずみ集中帯の地震波速度構造

新潟-神戸ひずみ集中帯に沿う下部地殻に低速度(やや低Vp/Vs)域が帯状に分布していることを指摘し,ひずみ集中には下部地殻の構造が重要な影響を与えると議論しています.EPSのe-Letterの論文です.4ページにまとめるのに苦労しました.この結果は,「新潟-神戸間に柔らか地盤」と いう見出しで朝日新聞の一面を飾りました.

J. Nakajima and A. Hasegawa,
Deep crustal structure along the Niigata-Kobe Tectonic Zone, Japan: its origin and segmentation
Earth Planets and Space, 59, e5-e8, 2007.  LINK


長町-利府断層の深部構造

仙台市中心部を横切る「長町-利府断層」に関する論文で,1998年に発生したM5の地震以降に展開された臨時観測点のデータを用いています.断層周辺の5つの特徴的な速度異常を抽出し,白沢カルデラや断層運動と関連ふけてその原因を議論しました.吉田先生にいろいろ助けて頂きました.博士論文の一部です.

J. Nakajima, A. Hasegawa, S. Horiuchi, K. Yoshimoto, T. Yoshida, and N. Umino
Crustal heterogeneity around the Nagamachi-Rifu fault, northeastern Japan, as inferred from travel-time tomography
Earth Planets and Space58, 843-853, 2006.    LINK